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留学報告

西オースオトラリア大学短期留学記

齋藤 昌利

2013年6月28日から約4週間の予定で、かつて2年半在籍したオーストラリア、パース市にある西オーストラリア大学、School of Women’s and Infants’ Healthに昨年同様今年も妊娠ヒツジを用いた多施設共同胎児生理学実験のため短期留学をさせて頂いております。

パースの朝焼け
パースの朝焼け
真夏の蒸し暑い日本を抜け出し、かつ目まぐるしい臨床現場から解放されて、あたかもオーストラリアでの「避暑&夏休み」のパラダイス生活をご想像されるかも知れませんが、実際の生活は全く別物なのです。真冬のパースの真っ暗な朝5時半に起床、6時半から大学の動物実験棟で手術の準備&ヒツジの体調チェック、その後、手術に用いる前投薬準備&投与、ヒツジ捕獲、麻酔導入、挿管、毛刈り、消毒を行い、手術に移行していきます。その後、手術が終了したら覚醒&抜管し、ゲージの中に戻す、これを平均して1日に3件〜4件繰り返している状態です。もちろん手術を施行したら終了という訳にはいきませんので、手術の間に、薬剤負荷、採血サンプリング、羊水サンプリング、検体処理、帝王切開、解剖、Autopsyなどがちりばめられる状態です。最後に手術室の掃除を終わらせ、再度ヒツジの体調チェックを行い帰宅となります。帰宅する頃にはすでに街は真っ暗になっており、パースの絶景を目に焼き付けたり、目も開けられないくらいの降り注ぐ日差しを全身に浴びる、などということはできず、ただひたすらヒツジと1日を過ごすという日々です。ヒツジさんは僕ら人間と非常に仲良しで、とても言うことを聞いてくれる行儀の良い動物です、、、と言うはずはなく、すべての行動&行事が「vs.ヒツジ」の構図となり、まさしく肉体労働を強いられることもヒツジ実験の宿命なのです。ということで、皆さんが想像しているようなパラダイス生活ではなく、連日の筋肉痛と戦いながら、お世辞にも美味しいとは言えないオージー料理を胃袋に流し込み、ビールを飲んで泥のように眠る、という生活を続けています。

現場では非常ににぎやかなチームで実験を行っており、オーストラリア人を筆頭にニュージーランド人、イギリス人、アメリカ人、インド人、カナダ人、ドイツ人、日本人と多種多様であり、またそれぞれの肩書きも科学者、医学生、科学生、新生児科医、産科医、獣医などなどまったく日本での日常とは違った環境で実験を行い、それぞれの観点や経験から少しずつ実験の内容を改善したり、来年へ向けて工夫をしたりしています。こういったトラブルシューティングやクリエイティブな環境もここに来る大きな意義の一つと考えています。

Dr-Matt-Kempとの手術風景
Dr-Matt-Kempとの手術風景
2009年から数えて今回で5回目のオーストラリアでのヒツジ実験生活ということになりますが、この5年間で明らかに実験内容が変化してきています。
このSchoolに留学していた2009年には、子宮内炎症や薬剤投与と行った負荷を胎児に与えるとどのような「変化」が認められるのか?ということが大きなターゲットであったように思います。しかしながら最近は、その被るであろう変化をいかにして「予防」するか、あるいはいかにして「沈静化」するかということにシフトチェンジしているように感じます。これは、臨床現場においてどのようにして子宮内炎症を予防するか、あるいは子宮内炎症になってしまっていると思われる症例に対して、どういった方法で、あるいはどのタイミングで介入するかという観点に非常に似ていると思います。こういった臨床現場での悩みや葛藤をベースにした先見的な研究を「勇み足」だとしてもマンパワーや研究費をつぎ込んで力技でこなしてしまう所も非常にこの研究チームの魅力です。
また、最近の新生児治療の進歩を裏付けるように、実際の臨床現場では妊娠23週〜24週の胎児の娩出に踏み切ることがあります。しかしながら、こういった極低出生体重児のその後の推移についての研究はまだまだ少ないと言わざるを得ません。実際の臨床現場から得られるデータももちろん大事ではありますが、妊娠ヒツジを用いた実験によってさまざまなフィードバックや解決がなされてきた歴史があり、妊娠ヒツジを用いた実験も人間の23週〜24週に相当する時期に実験を行う必要性が出てきました。これまで、妊娠ヒツジを用いた実験(特に胎仔にカテーテル挿入を行う実験)はどんなに早くても妊娠100日〜110日であり、単純に期間だけの比較をすれば、全妊娠期間の67%〜73%相当になり、人間で言えば27週〜29週相当でした。そこで、今回の短期留学の大きな目的として、これまでにない妊娠日数でカテーテルを胎仔に挿入留置し採血が可能であるか技術的に検証することが一つの目的でした。今回、Pilot Studyとして妊娠90日(全妊娠期間の60%、妊娠24週相当)と妊娠83日(全妊娠期間の55%、妊娠22週相当)のヒツジ胎仔にカテーテル挿入ならびにそのカテーテルを介した採血が可能かを検証しています。現時点では「100%成功」とは言い切れませんが、予想を超える結果が得られており、今後の妊娠ヒツジを用いた胎児生理学実験の大きな飛躍の一助になると確信しています。

この原稿を書いている時点でこの短期留学も残り約2週間となりました。まだ2週間もあるという気持ちと、もう2週間しかないという複雑な気持ちですが、限られた時間を有意義に過ごし、実り多い短期留学にしたいと思っています。できれば、今後もこのようなよりグローバルな場に立ち続けられるようにがんばりたいと思います。

今回の短期留学にあたり、忙しい中こころよく送り出してくださった八重樫教授を始めとする医局の先生、また周産母子センターの皆様には感謝しております。