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留学報告

シンガポール通信

鍋島 寛志

皆様お久しぶりです!
シンガポールのラッフルズジャパニーズクリニック(以下RJC)で産婦人科医をしている鍋島寛志です。
早いもので、日本を離れて一年が経ちました。私のシンガポール行きは、研究はまったく関係なく、『留学』とは多少趣を異にしますが、せっかくの機会ですのでシンガポールの紹介や、こちらでの仕事についてお話ししようと思います。

さて、シンガポールと聞いてどのようなイメージが沸きますか?

『クリーンなトロピカルガーデンシティ』 『マラッカ海峡という地の利を生かした貿易国』 『アジア随一の国際都市国家』…。

どれも間違っておりません。しかし、医療関係者としてぜひ知っていいてほしいのは、『医療立国』すなわち、海外ツーリズムを呼び込む医療ハブとしての先進医療国、そして、官民をあげた医学研究の中心地ということです。

医療ツーリズムは、現在世界中で注目されており、アジアでも、シンガポールをはじめとして、タイやインドなど、多くの国が経済成長の柱として取り組んでいます。社会主義的な保険医療に縛られて医療が国のお荷物に成り下がっている日本とは対照的です。経済成長を成し遂げた国が次に望むのは、健康と長寿で、日本はそのノウハウにおいて大きなアドバンテージがあるはずなのですが…。
シンガポールでは1993年に約1万4000人だった外国人患者の数が、2010年には70万人に達しており、およそ、94億シンガポールドル(750億円)をシンガポールで使ったとされています。また、医学研究や製薬の分野は、今後、世界において最も重要な成長産業である事は間違いなく、シンガポールではこれらの教育、研究にも非常に力を入れており、例えば、東北大学出身で、京大のウイルス学講座教授だった伊藤嘉明先生が、シンガポールのバイオポリスに部下を引き連れて研究所ごと招聘されたのは有名な話です。

 

ラッフルズ病院外見それでは、私のこちらでの仕事の話です。
RJCが所属するラッフルズメディカルグループは、シンガポール内に78のクリニックを持ち、また海外も香港や上海に4つのメディカルセンターを擁する、シンガポール有数の私立病院グループです。シンガポールの私立病院の例にもれず海外からの患者獲得にも力を入れており、35%が海外からの患者さんとのことです。RJCはその中で、日本人に特化した医療を展開しており、シンガポールに3つのクリニック、また上海にも日本人向けクリニックがあります。皆様ご存知のように、英語が大の苦手の私がどうやって海外で医療をしているのか気になるところだと思いますが、実は患者さんが全て日本人ですので、全く問題が有りません(というのはちょっと嘘で、ローカルの先生やスタッフとのコミュニケーションには日々苦労しております…)。

シンガポールは海外からの医師に大きく門戸を開けており、いずれ別の機会に詳しくお話ししたいと思いますが、海外でトレーニングした医師(International medical graduates)がシンガポールで医師免許を取得するにはいくつかのパスウェイがあります。私が取得した免許は、Conditional Licenseと言って、日本人の治療に限定した医療ができるというものです(日本政府との交換条件で、医師30人までの条件付き)。外来での医療はほぼ制限なくできますが、侵襲を伴う医療(産婦人科であれば手術、分娩、体外受精など)はローカルのスーパーバイザー医師の監視下でなくてはできません。産婦人科はどうしてもこれらの業務が絡んでくるので、やむを得ずローカルの先生方とコミュニケーションを取りつつ仕事をしております。もっと日本にいるうちに英語力をつけておけば良かったと日々後悔しておりますが、本当に後悔先に立たず、ですね!

診察風景シンガポールの仕事で日本と一番変わった事と言えば、白衣を着なくなったことです。
こちらのドクターは基本的にワイシャツにネクタイで、ユニフォームはスタッフしか着用しません。
また、診察室はドクター一人に一室という感じで、診察室の中に診察台も入っており、別室で内診する日本のシステムのように効率重視ではありません。内診台のカーテンもありません(あれは日本独自の習慣のようです)し、日本のように電動で動く遊園地の乗り物のような立派な内診台もありません。私の部屋の診察台は、一応内診用の脚置きもついていますが、ウィメンズセンター(ラッフルズ病院の方の産婦人科)で診察をするときは、単なるベッドなので日本のシステムに慣れていると非常にやりづらく、卵胞チェックなども角度がつけられないと、お尻の下に枕を入れたりして、非効率的です。
日々の仕事内容ですが、朝、9時から診察が始まるので、入院患者がいる場合はそれまでに回診してから外来を始めます。午後は、基本的にはやはり外来ですが、たまにラパロなどを入れたときは手術室(こちらでは“オペレーションシアター”と言います。術者はさしずめアクターですね!)に移動してオペです。なお、こちらの先生は非常に働き者です。というのも、外科系医師であれば、サージカルフィーと言って、例えばラパロ下の子宮筋腫核出術であれば、およそ10,000ドル(日本円で約80万円)の収入が入ります(病院、ドクターによって価格は違います)。

月10件で800万円の収入、と考えればやらない理由はないですよね?従って、手術待ち、なんて言う概念はありません。手術でコンサルトすると『じゃぁ、明後日はどう?』と言われて、患者さんが『心の準備が…』なんて答える始末です。だから、朝7 時から予定帝王切開とか、5時からラパロ下ミオメクなんて、日本じゃ考えられないような時間で手術が組まれています。患者さんの数が収入に直結しますから、ドクターは常に笑顔で、患者さんには本当に親切です。日本でもドクターにインセンティブを導入すれば、あっという間に手術待ちも、ぶっきらぼうな外来も無くなりそうなものですが。仕事の話に戻ると、体外受精があるときは、日本のクリニック同様、朝一で始業前に採卵、また、平均すると月10件弱くらのお産に立ち会います。そうそう、お産はほとんど無痛分娩です。痛くないので最後まで妊婦さんはニコニコ、会陰縫合も、当然麻酔はいりません。研修医時代、VBAC、骨盤位経腟分娩当たり前の超自然分娩志向ボスに育てられた自分としては、大きなカルタチャーショックでした。もちろん、こちらは患者さんのニーズを最大限に取り入れますから(まさにお客様は神様)、自然分娩がダメというわけではなく、希望があればフリースタイルも、水中分娩でさえ対応します。聞くところによると、水中分娩はほとんど欧米系の妊婦さんが希望するらしく、アジア人は無痛分娩が主体とのことですが。
また、中華系の方は産まれる日にこだわるので、計画出産は当たり前です。占いで産む日を決める方もいるそうで、特に、今年はお金持ちになると言われるドラゴンイヤーからスネークイヤーへの変わり年だったので、チャイニーズニューイヤー(旧正月)前は、分娩予約でいっぱいだったそうです。さて、仕事が終わると当直は無いので、毎日家に帰れます。こちらは、プール、テニスコート付きのコンドミニアムが普通ですので、帰宅後は泳いだりテニスをしたりしてのんびり過ごす…、はずだったのですが、何せシンガポールには日本人の産婦人科医はたった一人ですので24時間365日オンコール。何の事は無い、田舎の関連病院で働いていたときとあんまり生活は変わりません。残念。ドクターが増えれば、楽しいシンガポールライフが待っています。皆様、ぜひシンガポールで産婦人科医をしましょう!

最後に、海外で働いてみたいという私のわがままを許可していただいた教授、医局長を初め、快く送り出していただいた医局の皆様に本当に感謝しております。
シンガポールにおいでの際は、いつでもお声かけください。また、日本に戻った暁には、こちらでの貴重な経験を生かして頑張りたいと思いますので、その際はよろしくお願い致します。