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米国 Oregon National Primate Research Center留学報告

立花 眞仁
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ラボでのBBQパーティー

私は現在オレゴン州BeavertonにあるOregon Health & Science UniversityのOregon National Primate Research Centerに留学させていただいております。大学では生殖・内分泌グループに在籍しており、寺田准教授のもと、主にIVFを中心とした生殖医療を専門に勉強させていただいておりました。生命の誕生の瞬間である受精にかかわる臨床と研究はとても魅力的で、特に初めて受精の際の細胞骨格の動きを見た時は大きなインパクトを受けました。単に蛍光で標識された細胞骨格が綺麗だったからかもしれませんが、その影響で未だに実験では蛍光の写真や動画などビジュアル的なものに執着するところがあるかもしれません。同時に顕微鏡を用いた配偶子の操作にも魅力を感じ、現在の留学先ではこの技術の中でもハイレベルな核移植技術を用いた研究に従事しております。私が渡米したのは2008年6月16日なので、気がつくとすでに1年4カ月が経過してしまいました。怒涛の勢いで過ぎていく日々とは対照的に停滞している英語力に日々残念を感じている今日この頃ですが、私の留学生活を簡単に紹介させていただきます。

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実験の様子
私が在籍しているラボはShoukhrat Mitalipov博士の研究室で、世界で初めて霊長類の核移植胚からES細胞を樹立した研究室です。ラボの研究は大きくは配偶子操作を行うARTチームと、ES細胞や最近話題のiPS細胞を扱うESチームに分かれており、私はARTのテーマを一手に引き受けて研究を行っています。ヒトにもっとも近い霊長類を扱うことができるという恵まれた環境で、顕微授精はもちろん核移植やマイクロインジェクションなど様々な技術を駆使した研究を行っています。なかでも今後の再生医療やgene targetingに重要なクローンサルの作製は、今一番重要な課題として力を入れて取り組んでいるところです。昨年一年間でだいぶ成功に近付いている予感はあるのですが、まだまだハードルは高いのが現状です。

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ボスとのツーショット
しかし、最近、この核移植技術を用いてミトコンドリア病の遺伝を防止するための臨床前モデルの開発に成功し、成果を英国科学雑誌のNatureに発表することができました。これは第二減数分裂中期で停止している成熟卵子において、核DNAを紡錘体−染色体複合体(Spindle-Chromosomal complex)として抜き取り、除核された別の卵子に融合するというものです。私たちはこの方法をSpindle-Chromosomal complex Transfer: STと呼んでいます。ミトコンドリアは独自の遺伝子(ミトコンドリアDNA)を保有しており、37の遺伝子をコードしています。主にエネルギー通貨であるATPの合成にかかわる遺伝子をコードしているため、ミトコンドリアDNAの異常は脳、骨格筋や心筋といったエネルギー需要の大きい臓器において障害として現れます。そして、残念ながら現在有効な治療法が存在しません。また、ミトコンドリアDNAは卵子からのみ遺伝(母系遺伝)するという性質があります。ですので、我々のコンセプトは卵子の段階で健常なミトコンドリアを持つドナー卵子に患者の核遺伝子を移植することにより母系遺伝を防止するというものです。今後ミトコンドリア病という難病をもつ患者家族が子供を望む際の有効な生殖のオプションとなることを願っているところです。

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Yosemiteでの家族写真
オレゴンという自然が豊かで非常に住みよい土地での苦しくも楽しい研究生活をエンジョイ?している訳ですが、渡米して一年はかなり研究三昧で殆ど土日も休みなく研究所に通う毎日でした。ですので、今年の夏は家族への恩返しに初めて休みをとって“これぞアメリカ”というモーターホーム(キャンピングカー)での国立公園めぐりの旅を楽しむことができました。子供たちも私たち夫婦も大はしゃぎで、感動の連続でした。大自然を体中で感じ、英気を養って、またこれからの研究生活に気合いを入れなおしたところです。この文章を書いている10月からサルの採卵のシーズンが始まるため、また忙しい日々がスタートし、同時にオレゴンは雨期に入っていくので気分的にはやや下降線ですが、また来年の春以降の素晴らしい季節を思い描きつつ今取り組んでいるクローンサルの成功を夢見ながら頑張りたいと思っております。