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海外学会報告

第31回名古屋国際がんシンポジウム報告記

豊島 将文

2016年2月13-14日の日程で愛知がんセンターにおいて「第31回名古屋国際がんシンポジウム」が開催されました。このシンポジウムは基礎研究者と臨床腫瘍医が、共にがんに関連する様々なトピックに関して議論する場として毎年開催されています。本年度のテーマは初日ががん免疫について、2日目がBRCAや乳癌・卵巣癌についてでした。全て英語でのシンポジウムで当教室からは重田先生と私が参加致しました。印象的だった講演について以下ご紹介します。

1.Heiichiro Udono (Okayama Universitu)
メトホルミンを内服している患者でがん発生率が少ないという疫学的な事実から、メトホルミと癌との関わりについての発表でした。メトホルミンが糖代謝を介して癌免疫に関連している事、その標的はCD8+TIL(腫瘍組織浸潤リンパ球)である事、メトホルミン処理後のCD8+TILではIL-2、TNF-αやγの産生が見られるという内容でした。

2.Jeffrey Weber (NYU Langone Medical Center)
免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果について皮膚メラノーマ患者でのデータを多く紹介していました。今までのスタンダードであったダカルバジンとの生存率の差は非常に大きく、データは様々な一流誌に論文発表されていました。チェックポイント阻害剤は他の薬剤と組み合わせて使用される例もありますが、衝撃的だったのは使われる順序によってチェックポイント阻害剤の効果が異なる可能性があるというデータでした。フロアーからの質問で粘膜発生のメラノーマ(婦人科で見られる腟メラノーマなども含まれます)も、これらの皮膚メラノーマと同様に考えて良いか?というものがありました。皮膚と粘膜では腫瘍の性格が少し異なり、また粘膜メラノーマの詳しいデータはまだないようですが、期待してよいのではないか、との事でした。

3.Nils Lonberg (Bristol-Myers Squibb)
免疫チェックポイント阻害剤使用後のKM curveは通常の抗がん剤と異なり以下のようにプラトーを作るのが特徴です。このpopulation AとBの違いに注目して種々の項目を比較していました。この違いを見分けるバイオマーカーが癌種によって異なるようで、婦人科癌に焦点を当てた研究が必要と感じました。

4.Matthew Ellis (Baylor College)
乳癌を対象にした大規模なプロテオミクス解析で、natureにpublish前のデータを紹介していました。乳癌の多くで5q chromosomeの欠損が見られますが、この部位に含まれているSKIP1とCETN3を同定し、これらのノックダウンがEEGFRとSRCの発現を増強するという事を示していました。またERBB2増幅例で共に増えるCDK12や11qにあるPAK1や17qのTLK2を新しい治療標的として紹介していました。全体的にはDNA→RNA→タンパク質→リン酸化までを網羅的に調べており圧巻のデータでした。
TCGAは有名でしたが、同様のプロテオミクスのデータベースであるCPTACを元にしており、これが婦人科がん研究に使えないか調べてみたいと思いました。

5.Sven Rottenberg (University of Bern)
マウス乳癌モデルを使ってPARP阻害剤抵抗性獲得のメカニズムを詳細に解析していました。BRCA1とBRCA2のどちらが変異しているのかによって抵抗性獲得のメカニズムが異なる事が示されており大変驚きました。また薬剤耐性のメカニズムを大きく4つに分けてそれぞれを詳しく調べていく研究の進め方も参考になりました。