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海外学会報告

AACR オーランド学会参加報告

豊島 将文

 平成27年10月17-20日にアメリカのオーランドで開催されたAACR special conferenceに、教室の重田先生と私が参加してきました。この学会は比較的規模が小さいものの、卵巣がん研究に特化した学会であり、その分野の世界最先端の研究者の講演が多く組まれており非常に勉強になる学会でした。学会のタイトルはAdvance in Ovarian Cancer Research: Exploiting Vulnerabilities(卵巣がん研究の進歩:脆弱性の利用)でした。

 発表は招待講演29題、優秀演題(口演)18題が8つのセッションに分かれて発表され、ポスターは一日目83題、二日目82題という規模でした。全てのセッションが一列で進行していたので、全演題を堪能できる構成になっていました。

発表内容は卵巣がんの基礎研究に関連するものが多かったのですが、免疫療法など臨床的な内容の発表もありました。特に@DNAダメージと修復に関する分子メカニズムA卵巣がんの発生母地と発癌メカニズム、B子宮内膜症と卵巣明細胞腺癌、C免疫学的治療、の4分野では非常に研究が盛んである印象を受けました。

今回は、重田先生の「卵管上皮細胞におけるトランスフェリンによるDNA二重鎖切断」に関する博士論文がまとまったので、その内容をポスターで発表しました。研究内容と学会の重点分野がマッチしており、重田先生は多くの質問を受けていました。また日本からは京都大学産婦人科から4題もの発表がありました。

特に印象に残った演題を4題ご紹介いたします。

@The origins of ovarian cancer by Dr. Kathleen R. Cho
最初の演題であり、まさに本学会の話題の中心である「卵巣がんの起源」を組織型別に紹介した内容でした。漿液性腺癌に関しては卵巣表層上皮ではなくSTIC由来であり、卵管から細胞表面にこぼれた「異所性卵管組織」が腫瘍化したもの、との考えが優勢のようです。子宮内膜症を起源とする類内膜腺癌と明細胞腺癌についてはその分子レベルでの違いが不明でありマウスモデルを用いて盛んに研究されているようでした。また粘液性腺癌に関してはteratomaやブレンナー腫瘍が原因とする論文が紹介されていました。また卵巣でのがん肉腫はhigh grade serousのsubtypeとの考えもあるようで、子宮体癌との違いに驚きました。さらに卵管のみで発現するプロモーターであるOVGP1を用いたマウス卵巣がんモデルの有用性も強調されていました。卵巣癌の治療が早期発見や予防にシフトするなか、卵巣がんの起源を明らかにする研究はますます重要になると考えました。

ADeveloping and deploying experimental models systems towards novel drug discovery in ovarian cancer by Dr. Ronny I. Drapkin
我々が不死化卵管上皮細胞を頂いたDrapkin先生のお話は、卵巣がん研究におけるマウスと細胞株モデルについてのお話でした。免疫不全マウスにヒトがん細胞を移植するモデルと遺伝子改変マウスによる卵巣癌モデルの比較はとても勉強になりました。また卵巣がん細胞株についてもそれぞれを詳細に遺伝子解析した結果を示して、研究目的により適切な細胞株・より患者検体に近い細胞株を選択する事が大切であると強調していました。

BComputational modeling of serous ovarian carcinoma dynamics: Implications for screening and therapy
これは優秀演題からですが、漿液性腺がんの治療としてprimary debulking surgeryとNACのどちらがいいかを数学モデルを用いて考察したものです。このモデルによると初回治療として可能な限りがん細胞を減量する事が大切、という結論でした(つまりprimary debulking surgery> NAC)。同じ1cm大の残存腫瘍であっても、primary surgeryの時はnaiveながん細胞なので化学療法の効果が期待できるが、NACの残存腫瘍はすでに薬剤耐性を獲得した細胞の集団であるという事です。これは考えると当たり前なのですが「なるほど!」と思わせる内容で面白かったです。

CNew directions in targeting the tumor microenvironment by Dr. Anil K. Sood
MD Andersonがん研究センターのSood先生(卵巣がん研究では間違いなく世界のトップクラスでしょう!)の発表はまさに圧巻の内容でした。Bevacizumabは連続で使い続けると非常に予後を改善するが、治療途中で中止すると予後改善しない事が分かっています。この理由として、Bevacizumab中止により残存がん細胞の増殖がリバウンドする事を示していました。また卵巣がん患者では血小板高値を示す場合は予後が不良である事がSood博士らのグループから報告されており、この際に血小板の微小管の構造が健康な人と比べて変化しておりバイオマーカーとなりうるという事でした。この変異血小板が Bevacizumab中止のリバウンドに関わっており、抗血小板抗体を併用するとこのリバウンドが防げることや、またFAKが重要な因子であることを示してBevacizumab+FAK阻害剤の組み合わせが非常に効果的である事を示していました。

オーランドは世界有数の観光地なのですが、今回は学会会場での朝食に始まり夕食やランチを兼ねながらのポスターセッションでまであまり空き時間のないプログラムであり、夢のディズニーランド観光はできませんでした(涙)。しかし重田先生は最終日にシーワールドで少し骨休めが出来たようでした。この学会は1年おきに開催されますが、次回もぜひ参加したいと思います。

最後になりますが、この様な機会を与えて頂いた八重樫教授と婦人科病棟の留守番をして頂いた橙チームの皆さんに厚く御礼申し上げます。