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海外学会報告

第63回ACOG Annual Meeting

渋谷 祐介

 

海外学会報告 日本産婦人科学会の産婦人科医育成奨学基金のプログラムとして、2015年5月2日から6日まで米国サンフランシスコで開催された米国産婦人科学会(American Congress of Obstetricians and Gynecologists: ACOG)のAnnual meetingに参加させて頂きました。

派遣団のメンバーは大阪大学の木村正教授、東京医大の西洋孝先生、大阪大学の上田豊先生、junior fellowとして京都大学の医師5年目の植田先生から京都府立医大の同8年目の秋山先生、東海大学の同10年目の林先生、東京大学の同11年目泉先生、東北大学の同8年目私の計5人が参加いたしました。

 

 

海外学会報告 サンフランシスコはカラッと晴れて海からの涼しい風が心地良く、古くからの街並みも美しい米国人にも人気の観光地で、成田から往路9時間、帰路10時間半と日本からのアクセスも比較的良好です。

 米国の学会には初めて参加しましたが、会場では軽快なclub musicが流れており自然と気分が盛り上がります。ACOGは臨床の話題がメインの学会で、臨床医の知識のアップデートするプログラムや、レジデントに向けた超音波検査や子宮鏡手術の半日がかりのハンズオンプログラムも組まれています。ランチョンセミナーは日本と同じ形式のものもありますが、Lunch with the Expertsという9人テーブルそれぞれに1人ずつの専門家を囲み、講義と質疑応答を交わすという企画が特徴的でした。テーブルを囲んだ面々は50歳くらいの開業医さんから医学生まで様々で、食後のコーヒーを飲みながら子宮内膜症の治療について熱い議論が交わされました。

海外学会報告 毎夜様々なレセプションが開催され、全米のレジデントの代表が集まる会では米国のレジデントの生活や悩みといった生の声を聞くことができました。また、ACOGはレジデント向けにインターネットを用いて動画で症例を学べるサイト(CASE NETWORK)を提供しており、その説明会にも参加させて頂きました。診察法まで細かく描写された実践的な内容で、稀な疾患も効率的に学べるようになっています。日本からもアクセスできるようになれば、日本の若手産婦人科医にも非常に有益だと思います。

 日本からの派遣団もポスター発表があり、各々プレゼンを行いました。e-poster形式で、セッションの初めに発表者全員が1分間のshort presentationを行い、その後各自の大きなモニターの前に散らばり、1時間の質疑応答が始まるといった形でした。私は東日本大震災が不妊症患者に与えた影響を報告し、FIGOのジャーナルの元editor in chiefのTim Johnson先生に興味を持って頂き、論文化するよう薦められました。とても勇気づけられ、早速執筆を開始しました。このような著名人に直接出会えるのもACOGの魅力だと思います。

 

海外学会報告 今回の派遣前から、先輩にあれは面白いと言われ楽しみにしていたのが、若手医師による名物企画であるStump the Professorsです。産婦人科研修医が4人の選ばれた教授に症例の経過や検査所見をプレゼンし、診断できるか否かを競う真剣勝負になります。妊娠性の巨大乳腺症や胆石の落下による付属器膿瘍、UAEの塞栓物質による腹腔内腫瘤など珍しい症例ばかりでしたが、若手医師の流れるようなプレゼンと楽しい教授陣の掛け合いでどれも忘れられない疾患になりました。

 

 

海外学会報告 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)付属のMedical Centerの見学もプログラムに含まれており、ミッション・ベイ地区に移転したばかりの病院を見学させて頂きました。シリコンバレーが近いこともあり、企業関係者からの多額の寄付もなされ、病棟・病室内や構内に様々な実験的なIT技術やデジタルアートが散りばめられています。

 ICU、NICUは全て個室で、世界的にもこのようになる流れの様です。特にNICUは個室の中に保育器が1台ポツンと置いてあり、一見寂しそうですが家族の面会はしやすそうで、後々の親子関係の形成には良いだろうと想像されました。年間2,000件の分娩を扱う全米病院ランキングの上位の病院ですが、自分たちより若いと思われるレジデントたちが最前線で生き生きと働いているのが印象的でした。

 

 このプログラムを経験して得たことは沢山ありますが、特に以下の2点が大きな収穫でした。米国では臨床を行う人と基礎研究を行う人が別なため、ACOGは純粋に臨床的学会になりますが、臨床と基礎的な研究を又にかけて行っている医師が多い日本の学会は面白いと再認識でき、自信に繋がったことです。また、米国のレジデントとの交流もさることながら、個性豊かな日本の若手医師と出会えたことです。各大学の現状やお互いの目標を語り合い、良き友人になれたことは代えがたい財産となりました。若手医師5人の中には産婦人科の後輩と結婚され、3人のお子さんがいる中、奥さんの医師としての経験を積んでもらうために研究の合間に主夫をしているという先生もおられました。日本、特に産婦人科では女性医師が増えており、妊娠出産・子育てによる人手不足の問題もあります。女性医師の「夫(医師であることが多い)」の努力も大切で、早期に復帰できるようアシストすることが大切だと感じました。

 最後になりましたが、このような貴重な機会を授けて下さった日本産婦人科学会、ACOGの皆様に心より感謝いたします。