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海外学会報告
第62回ACOG Annual Clinical Meeting
濱田 裕貴
2014年4月26日〜4月30日、シカゴのMcCORMICK PLACEにて第62回ACOG Annual Clinical Meetingが開催、日本産科婦人科学会から若手医師6名が派遣され、幸いにもその一員として参加させていただきましたので、ここにご報告いたします。
4月25日に成田空港にて集合し、同日、現地時間14時にシカゴ・オヘア空港に到着しました。春のシカゴの天気は不安定で、20度を超える汗ばむ天気が続いたと思えば、10度未満の寒い雨に打たれることもあるようで、学会期間中は寒く雨がちな天気でした。
日程は濃密そのもので、早朝からモーニングセミナー、朝から晩までみっちりと様々な講演やセッション、ポスター発表に参加、夜は毎晩なんらかのレセプションに出席と、息つく暇もなく、英語と講義内容で頭がパンパンとなり、一日が終わりホテルに戻ると、academicな心地よい疲労感に包まれ、スコンと眠りに落ちる毎日でした。
学会の内容は、全体として実地臨床的なものがメインでした。
早朝のモーニングセミナーでは、若手に対する産婦人科医としての思想論や、アメリカでの妊婦のDVの問題など、日本ではあまり見られない内容の講演で、朝から刺激的でした。
Postgraduate Courseは、周産期・腫瘍・生殖など8つのテーマから、あらかじめ選択したコースを受講するものでした。私は周産期を専門としておりますので、妊娠初期の超音波についてのセッションを受講しました。超音波の安全性、妊娠初期の超音波所見、異所性妊娠の診断と治療、妊娠初期の付属器の異常、1st Trimesterでの奇形・Trisomyの検出、NIPTの話題など、基本的な内容から最新のトピックスまで幅広くカバーされていて、教育的な内容となりました。朝から晩までの長い時間でしたが、流れるような講義に、長さは感じませんでした。
Presidents programは、世界での産婦人科医療のトピックスに触れ、世界での産婦人科医療の較差問題や、DOHaDのチャレンジ、環境ホルモンの生殖機能に及ぼす影響に関する研究の講演がありました。どれも世界をリードする先生の講演で、産婦人科の現在の流行や将来への展望を感じ取ることができました。
Lunch with Expertsは、数十のテーマごとに少人数でテーブルを囲み、演者から基調となる話が行われ、その後フリーでディベートが行われるもので、私は、今回のポスター発表に関連する「肥満妊婦の周産期予後」のテーブルに参加しました。南米・北米ともに、肥満妊婦の管理は大きな問題となっており、いかに管理するかが、産婦人科の抱える大きな課題であることがメインテーマでした。日本にも共通する話題でしたが、国により異なる医療事情により、力を入れるところに差が見られ、大いにディスカッションが盛り上がりました。アメリカには母親学級や栄養指導という制度がなく、医師がいかに短時間に患者を教育するかが課題のようでした。その中で、肥満妊婦に対してレコーディングダイエットを行うRCTを行い、妊娠予後の改善につながった、という論文を紹介し、そのアイディアと有用性について、活発な意見交換がなされました。日本人にとっては、提供された昼食そのもののカロリーが過剰で、緊張も加わり、ほとんど喉を通りませんでしたが、いかにアメリカの食事が肥満に影響するか、身をもって証明することとなりました。
続くポスターセッションでは、私は日本産婦人科学会で発表した、軽度妊娠糖尿病に対する治療介入の多施設共同研究を発表しました。日本とは違い、指定された1時間、ポスターの前に立ち、興味のある聴衆に対して短時間でプレゼンを行い、フリーで質疑応答が行われる形式で、自由な発想でディスカッションが行われ、活発な意見交換がなされました。お互いにアイディアを共有したり、鋭い指摘を受けたり、その研究をさらに磨き上げるのに、大変有意義なポスター発表となりました。
ACOGでは、若手医師の活動が大変に活発で、目を見張るものがありました。専門取得前の医師は、独立した組織を持ち、自ら企画を練り上げ、実行していました。
モーニングセミナーでは、ソーシャルメディアの医療に与える影響について講演があり、積極的に医療者から正しい情報を発信していくことの重要性について訴えていました。実際、今回の学会でもFacebookやツイッターはもちろん、ACOGアプリまで配信され、モバイルやタブレット端末も、医療を提供する重要なツールと言えます。
ACOGの名物若手企画Stump the Professorsは、産婦人科研修医が症例報告をもとに、臨床経過や検査所見などをプレゼンし、選ばれし凄腕教授陣が診断をつけられるか、というものです。ところどころ「次に行うべき検査は?」「ここまで質問は?」「鑑別診断は?」「画像の所見を述べよ」など教授陣を煽る質問なども出され、教授陣もタジタジ。しかし、それは、同時に聴衆もその症例の経過に引き込まれ、臨場感をもって症例報告を聞くことができる、大変魅力的な企画でした。今年は、研修医の冴えわたるプレゼン能力・質問交わしで、途中で教授陣も白旗を揚げる始末。結果的に3:1で研修医が勝利を収めました。
夜には毎晩何らかのレセプションが開催され、我々はすべてに招待され、参加させていただきました。基本立食形式で、交流を広げる場として位置づけられています。得てして日本人はこういうことは苦手ですが、旅の恥はかき捨てとばかりに、積極的に交流を広げ、若手医師はもちろん、会長や理事長、役員とも挨拶をさせていただけました。アメリカ人は往々にして大変フレンドリーで、これまた日本人が苦手なスキンシップ(握手、ハグ、ハイタッチ)で出迎えてくれました。こちらは、日本人の代名詞ともいえる名刺交換と一例で応戦し、交流を深めることができました。こちらでは、こういったレセプションはもとより、学会自体が、医師たちの就職活動の場でもあり、日本との学会の位置づけの違いを痛感しました。
日本との違いで言えば、表彰式もあげられます。アメリカの式典は盛大で、表彰対象者はACOGのカラーである緑色のマントを身にまとい、役員や次回会長の紹介、受賞者はもちろん、専門医取得者にも一人一人に賞状が手渡され、会長との記念撮影に、家族との記念撮影コーナー、さらには自画像コーナーなど、努力をたたえる催しが大々的に施されていました。盛大に祝い、そして、次なる糧へとつなげる。アメリカならではのホスピタリティを肌で感じました。
現地では、JSOGからの海外派遣メンバーの縦のつながり、そして、海外医師との横のつながりから、現地施設の見学をすることができました。
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ACOG派遣OBの古川先生のご厚意で、Northwestern Universityの病院と研究室を見学しました。病院ホールの様子は、日本の病院では考えられないほどの贅沢なスペースとリラクゼーションで構成されており、日米の医療に対する姿勢の違いを感じることができました。また、研究室では、実際に古川先生の研究デスクまで見せていただき、日本人研究者が海外で研究する実際を肌で感じることができました。
さらに、ACOG派遣OBの千代田先生のご厚意で、University of Chicagoの産婦人科医局・研究室・産科病棟・婦人科病棟のツアーを組んでいただきました。産婦人科教室のErnst教授直々に病院内の施設見学ツアーを先導いただき、アメリカの高品質な産婦人科医療の実際を見ることができました。また、同教室での研究に関するミニレクチャーもあり、研究の実際やその成果、トレンドまで伺うことができました。
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今年のACOGからのJSOG派遣メンバーの一人、Dr.Maryのご厚意で、University of Illinoisの産婦人科医局・外来・産科病棟の見学もさせていただきました。ここは、過去の現地病院見学では初となる州立病院で、保険未加入の低所得層患者も受け入れている、いわゆる野戦病院で、アメリカ産婦人科医療の前線で戦う様子を見ることができました。日本の大学病院・市中病院とも共通する部分も多く、若手が産婦人科医療を支えていることを改めて実感しました。
見学した3施設は、まさに三者三様で、アメリカ産婦人科医療・研究の多様性について感じることができました。
学会参加、レセプション、施設見学以外のわずかな時間も、ACOGスタッフのご厚意で現地の野球観戦にご招待いただき、つかの間のアメリカ観光気分を味わうことができました。また、フリーの日には、手短に市内観光もし、シカゴの街の雰囲気も肌で感じました。
全体を通して、濃密なスケジュールで、日本国内にいては感じることができない、生のアメリカの医療・研究の実際を感じることができ、大変有意義な海外派遣となりました。今回のACOG派遣を生かし、今後は学内外、日本産婦人科界の皆様に海外派遣の魅力を伝え、また、海外招待客を日本流に「おもてなし」することに関わることで、学会、およびACOGに恩返ししてまいりたいと思います。
最後になりましたが、貴重な機会を与えていただきました日本産科婦人科学会並びに産婦人科医育成奨学基金制度に関わる皆様、そしてアメリカで面倒を見ていただいたACOGの関連の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。