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海外学会報告
ISGE2014参加報告
東北大学病院 産婦人科 渋谷祐介
2014年3月5-8日にイタリア、フィレンツェで開催されたInternational Society of Gynecologic Endocrinorogy (ISGE) の16th World Congressに参加させていただきましたので報告いたします。
フィレンツェはイタリアの中部、ミラノとローマの中間に位置し15世紀にはメディチ家の庇護の下ルネッサンスの中心となった街です。中心市街地は徒歩で回れるほどコンパクトですが、歴史的な街並みがそのまま保存されており街全体が博物館であるかのようです。
東北大学からは、私と只川真理先生、武田卓先生(近畿大学東洋医学研究所教授)が参加しました。私がこの学会に参加することとなったきっかけは、Under 34 Competitionという若手を対象にした企画の存在を教えて頂いたことでした。「抄録を提出しBest 100に選ばれると学会参加費(7万円ほど)と三ツ星ホテルの宿泊費が無料になります」という文句に挑戦し、お情けだと思いますが選出して頂きました。
婦人科内分泌の学会のため、プロゲステロン等に関するセッションが多くみられました。特に重要と思ったものは、
① | 新型のピル E2/NOMAc 現在欧米で主流であり、近年日本でも使われ始めたEE/DRSPよりも更に副作用が少ない、新しいタイプのOCが実用化されているようです。天然型のE2(17β-estradiol)はEE(ethinyl estradiol)よりも血栓などの副作用が少なく、新開発のプロゲステロンアナログ:NOMAc(Nomegestrol acetate)も半減期が長く飲み忘れても排卵抑制効果が強いという特徴があり、RCTでも有用性・安全性が確認されていました。今後このOCが主流になっていくのではないかという印象を受けました。 |
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② | Intracrinology Endocrinologyの一部分を司る新しい概念で、Endocriologyが内分泌腺組織からホルモンが分泌されるのに対し、Intracrinologyは抹消組織内でのホルモンの局所産生、活性化、不活化が行われることを指す。更年期を過ぎると卵巣から分泌されるDHEAが減り、末梢でDHEAから変換されるE2、P4やAndrogenが低下してしまうことに着目し、腟内にDHEAを投与することで更年期障害の治療を行うことが可能になるというものでした。さらに子宮内膜にはDHEAをE2に変換する酵素がないため、子宮内膜癌を増加させることはなく安全な治療であるため、FDAも認可すべきという旨の話でした。 |
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③ | UPA(Ulipristal Acetate) 新しいProgesrerone Receptor Moduratorで強力な排卵抑制作用、子宮筋腫の増大抑制作用があり、新しい緊急避妊薬や子宮筋腫の治療に用いられています。特に、子宮筋腫ではRCTが行われており、速やかに(10日以内)に出血を止め、著明かつ持続的に子宮筋腫を縮小さるという結果が得られており、これも今後の中心的な治療となっていくと感じました。 |
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④ | Allopregnanolone P4の代謝物であるAllopregnanoloneはGABA-AまたはP4レセプターに作用し、睡眠や不安・うつ症状などに影響を与えるため、更年期にAllopregnanoloneが低下することが障害の一因になる可能性があるようです。 その他、micronized P4の有用性など、全体的に「より天然に近いホルモンが良い」というのが最近の潮流のようでした。 |
我々の発表は、3月6日のポスターセッションで私が「Effect of the Great East Japan Earthquake on the behavior of infertile patients」、武田先生が「Relationship between menstrual disorders and Posttraumatic Stress Disorder (PTSD) in Japanese high school students nine months after the Great East Japan Earthquake」と言うどちらも震災関連のテーマで発表を行いました。私の発表の要旨は震災前後で不妊治療の数を検討し宮城県で震災後1年目にAIHが著明に増加し、2年目にIVF、ICSIの増加がみられたことから、震災を機に不妊治療を行いたいと考えるカップルが増えたと考えられるというものです。発表を見て頂いた人からは、質問というよりは「こんなに増えたんですね、減ると思っていました。」「テレビで見ました、大変でしたね。頑張ってください。」と感想や優しい励ましのお言葉を頂きました。
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只川先生は「The anti-diabetic drug metformin suppresses VEGF expression and secretion through inhibition of the mTOR / HIF-1α pathway in uterine leiomyoma cells」というテーマで一般口演での発表でした。発表後、廊下でロシアから参加している先生から「私もmetforminを使っている患者に筋腫が少ないと思っていました」と声をかけられ、勇気づけられました。
余談ですが、Under 34 Competition winnerに提供されたホテルは、まさかの相部屋で、私はトルコ出身でイランのTabriz University所属のAbbas Majdi Seghinsaraと同室でした。イランでは宗教上の理由で男性は産婦人科医になれないため、Embryologistとして働いているとのことでした。Abbasはホテルの部屋ではこちらのことを細かく気遣ってくれる一方で、会場でも積極的に質問をする元気な人で、いい友人になれました。イランではEUに入るビザを取るのがとにかく大変だったため、この学会の後はベルギーにいる友達に会いに10日ほど旅を続けるとのことでした。海外で勉強をしたいと話しており、突然日本に行くかもしれないからその時は宜しくと言われております。
私にとっての初めての海外学会でしたが、国内では得られない新鮮な刺激に満ちたものでした。この学会に参加した経験を今後の研究、診療に存分に生かしていきたいと思います。このような機会を与えて下さった八重樫伸生教授をはじめ教室の先生方に心よりお礼申しあげます。