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海外学会報告

第8回国際DOHaD学会に参加して

東北大学大学院医学系研究科 周産期医学分野 博士課程  岩間 憲之

 

海外学会報告2013/11/16〜20にかけて、シンガポールで開催された第8回国際DOHaD学会に参加させて頂きました。DOHaDとはDevelopmental Origins of health and Diseaseの略で、胎児期から出生後の環境要因が、心血管イベントなど将来の疾患発症に影響を及ぼすという概念です。本学会はDOHaD研究の国際学会で、2年ごとに開催されています。今回、当教室からは私の他、杉山隆先生、目時弘仁先生、伊藤拓哉先生が参加されました。

シンガポールと日本の時差は1時間、成田から約7時間のフライトでした。赤道直下にあるため高温多湿であり、時折雷鳴を伴うスコールがありました。学会はチャンギ国際空港から車で30分ほどの所にあるSUNTEC Singapore Convention & Exhibition Centreで行われました。参加者は約1000名で、うち日本の研究者は約50名でした。

現在私は疫学の教室にお世話になっていることもあり、DOHaDに関する疫学研究を中心に聞いてきました。その中で特に印象に残ったものを挙げさせて頂きます。

ニュージーランドから胎児貧血と成人期の心機能、心血管イベントの危険因子について報告がありました。血液型不適合妊娠による胎児貧血のため胎児輸血既往のある成人と、胎児貧血が無かった成人を比較した結果、前者では成人期の心筋血流、心機能、心臓sizeが低下している一方で相対的左室壁厚(求心筋肥大の指標)が増加していました。このことから、胎児貧血により各心筋細胞は増大する一方で細胞数が減少する可能性が示唆されました。さらに、胎児貧血を有した人は成人期のHDLコレステロールが低下し、交感神経のactivityが活性化していました。以上より、胎児貧血は心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベントの危険因子と関連している可能性が示唆されていました。

オランダのロッテルダムで行われているGeneration R studyからも複数の研究結果が報告されていました。母親の妊娠中の喫煙と児の(6歳時)喘鳴、喘息について検討されていました。1st trimesterで中止した場合は児の喘息とは有意な関連は無かったものの、喫煙継続していた群では児の気道抵抗増大、喘鳴、喘息と関連していました。さらに、胎児期の血流再配分や小さい腎臓sizeが小児期の腎機能低下と関連していることが報告されていました。
他、妊娠糖尿病の発表が多く、関心の強さが窺われました。また、JAMAのeditor in chiefによる、若手研究者のための論文の書き方についてLectureがあり、とても参考になりました。

海外学会報告私は疫学の勉強をさせて頂いておりますが、疫学研究の困難さの一つが、データ解析であると感じています。研究の規模が大きくなるほどデータの質の低下が懸念されます。例えば欠損値の発生です。欠損値のある対象者を解析から除外してしまうとPowerが低下する、バイアスが生じるといった問題が発生します。そこでGeneration R studyの研究グループは、欠損していた交絡要因をFully Conditional Specification (FCS)やMarkov Chain Monte Carlo (MCMC)を利用して補完していました(多重補完法)。また、DOHaDの疫学研究ではOutcomeを経時的に反復測定する場合があります。胎児期・新生児期から追跡するため、胎児の超音波測定データ、小児期の発育データをOutcomeとして解析する場合があります。しかし、反復測定データは個体内相関が生じるため通常の回帰分析を適用できません。さらに研究参加者の測定間隔の厳密なControlが困難だったり、Outcomeの欠損も起こるため、反復測定ANOVAの適用も困難です。そこで、諸外国の研究者達はこれら問題に対応可能なモデル(Multilevel model)を使用していました。本学が参加しているエコチル研究や、東北メディカルメガバンクのコホート研究でもこれら解析法が有用なsituationがあると思われました。

次回のDOHaD国際学会は、2015年に南アフリカで開催されます。我が国からもエコチル研究を代表としたDOHaD研究の成果が発表されるのではないかと期待されます。